「コータくん…」
「由那? もうちょっとだから、静かにしてて」
こっちに顔を向けずに、コータくんは思いのほか真剣な声でそう言った。
コータくん、具合悪いわけじゃないの?
恐る恐る様子を見るために近づくと、コータくんの手元に、小さなスズメのぐったりした姿があった。
どうしたの? って聞きたいけど、ものすごーく真剣な顔だから声をかけられなくて。
あたしはコータくんの隣にしゃがみこんで、じっと、そのぐったりしたスズメを見つめた。
ほんの少し。
スズメは息を吹き返したみたいに羽を動かして、直後、ばさり、と地面に脱力した。
「…おやすみ」
ふぅ、と黒ぶちめがねのコータくんがつぶやく。
スズメに?
「どうしたの?」
聞きたくても聞けなかったクエスチョンを声にすると、瞳を真っ赤に(!)染めたコータくんが、ゆっくりとあたしを見返した。
「クーラーの室外機に巻き込まれたみたいで。
 瀕死の状態だったから、いっそ一思いに殺してあげた方がいいと思って引き取って来たんだけど、これで殺しちゃ痛いだけだと思って。
 痛みを感じる神経だけ切って、快楽中枢に信号を送ってたんだ。
 かなりはっぴーな思念を残して逝ったよ、こいつ」
スズメのはっぴーな思念を感じられてしまうのねあなたは。
と言うか……。
「その室外機って…」
「あ。そう言えば、由那のクラスのだったかも。
 たまたま四時間目の授業が無かったから、修理業者頼むように言われて、一応、立ち会ったんだ。
 でもこいつ見つけて、立会いは教頭に任せて、俺は腹痛でトイレに行ってることになってるけど」
腹痛って嘘ついて、スズメの最期を看取ったんだ。コータくん…。
コータくんは、裏庭の花壇の隅っこにちょっと深めの穴を掘って、その中にスズメを埋めた。
「ごめんな、俺たちの勝手で、お前たちが住みにくくなっちゃって」
瞳を真っ赤にして、いじめっ子モードのはずなのに、何故かコータくんは優しげにスズメに声をかけている。
「こうやって、自分の力じゃどうしようもない事で傷付いてる奴見ると、放って置けなくなるんだよな」
コータくんはそう言って、スズメを埋めてこんもりとした土をぽんぽん、と撫でた。
その動作のまま、花壇の脇にある散水用の水道で、たった今の土いじりで汚れた手を洗っている。
自分の力じゃどうしようもない状態で、自分が望んでもいない能力者にさせられたコータくん。
コータくんにとって、スズメは自分と同じような被害者にうつったのかもしれないね。
「さてと。」
立ち上がったコータくんは、黒ぶちメガネのくせに意地悪な雰囲気。
え?
にや、とちょっとえっちな雰囲気で笑われて、あたしは少し、心臓を上ずらせる。
やだぁ…瞳が赤いって事は……。
「呼ぶ手間が省けたよ、由那」
「えと…大田先生?」
「大丈夫。こんな暑い日に、裏庭に来る奴なんて居ないよ」
いえ、そんな事を心配しているわけじゃ……
コータくんは有無も言わせない雰囲気であたしの手首を取ると、そのまま、校舎のどの窓からも死角になる東屋の中にあたしを連れて来た。

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