「あちぃ〜〜」
クーラーなんて文明の利器に慣らされてしまったあたしたちは、四時間目の終わりごろに突如降りかかった、教室のクーラー故障なんて大惨事に、半ば魂を抜かれた状態で放置されていた。
教室の窓や廊下のドアを開け放してもぜんぜん涼しくない。
むしろ少しはクーラー効果のある廊下からの風を有効活用するべく、窓を閉めた方がいいなんて意見も飛び出るほど。
「窓側の席の奴ら、マジ死ぬかもね」
教室のそこここでそんな話が上がる。
実際、熱射病や熱中症なんかで、お年寄りやスポーツ中の人なんかがバタバタと死んじゃってる。
今日日の地球は暑過ぎて、洒落にならないぐらいなのだ。
地球温暖化なんて騒いでるけど、それどころの騒ぎじゃないですよ。この教室は〜。
「由那〜。隣のクラスに涼みに行かない?」
クーラーが壊れているのはうちのクラスだけなので、隣の教室へ避難すればいいんだけど。
「いいよ。めんどくさい」
隣のクラスで仲がいいのはつめおだ。でもつめおの教室にあたしが遊びに行くとうるさいんだよね。
意外とあたしもつめおも人気があるらしく。一緒にいるとこれ見よがしに噂されちゃうんだ。
「う〜。友情よりも、あたしは快適さを求めるわ」
ごめん、由那、かなんか言いながら、瀕死のあたしを置き去りにする茉莉絵。
いいのよ。誘ってくれたのに一緒に行けないのは、あたしの都合だもんね。
茉莉絵にばいばい、と手を振って、はう、と溜め息をつきつつ机に突っ伏す。
昼休みはあと三十分ぐらいある。
そして、その後六時間目まで授業。
ここでクールダウンしておかないと、本当に死んじゃうかも…。
「助けて…」
コータくぅんっ!
あたしは半ば無意識に席を立って、ふらふらと化学準備室へ足を向けた。
ホントに無意識にだよ。だって学校の中はらぶらぶ禁止なんだもん。
それでもあたしのオアシスはコータくんなのよ。にゃはは〜♪
普段は暑いと文句を言う廊下も、今日は教室に比べれば天国だよ。
鼻歌交じりで階段を昇って、化学準備室のドアをノックする。
例によって居留守をつかうコータくん。
そこにいるのはちゃんと知ってるんだからね。
返事の無いドアを開けると。
「あれ? ホントに居ない……」
化学準備室はもぬけの空で、コータくんの机の上には、いつもはたはたと顔を煽ぐうちわ(保険屋のおばちゃんが置いて行ったそうだ)が置きっぱになっている。
どこ行っちゃったんだろう? 最近は暑いから、中庭のランチも中止になってるのに。
お昼休みにコータくんがお仕事するなんて、考えられないんだけどなぁ…。
若干クエスチョンマークを頭上に浮かべつつ、あたしは素直に化学準備室で涼むことにした。
コータくんが居ないのに、一人でこんなところに居るのは不自然なんですが。
ま、こんな所、誰も来ないだろうしね。
コータくんのいつも座っている椅子に腰掛けて、ほけ、と窓の外を見る。
…って、れ?
窓から見える裏庭に、白衣のコータくんがうずくまっている。
ど、どうしちゃったのよぉ〜!
能力者のコータくんがうずくまるなんて、よっぽどの事だ。
あたしは心配の余り窓から飛び降りそう(って、ここから飛び降りたらちょっとした怪我じゃ済まなそうだけど)になるのをぐっと我慢して、きびすを返して化学準備室を飛び出した。
もう暑いなんて言っていられないよ!
大急ぎで裏庭に出て見ると、さっきと同じ姿勢のコータくんが、苦しそうにうずくまっていた。

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