あそこから和真の指が抜かれて、途端に脱力。
カウチの上に、糸の切れたマリオネットのようにぐったりするあたし。
浅い呼吸を続けていると、和真がゆっくりとキスしてきた。
「かわいい。由梨絵。
 僕の言う事をちゃんと聞くいい子だね」
「何言ってるの…」
「さっき行くって言ったじゃない。学校に」
へ?
「そんな覚えは…」
「無いなんて言わせないよ。ほら」
和真はケータイを取り出すと、凄いスピードで何やらキー操作をし始めた。
『あぁっあぁっや…やぁ、だめぇっ』
ケータイから、たった今の声が聞こえてきた。
うそっ!
『由梨絵、行く?』
『イキそう…、イク、イッちゃうよぉ』
『良く出来ました』
「ほらね?」にっこりって…こら〜〜!!
「な、なんてモノを録音してるのよっ! 和真くんは!」
「前から何度も録音してるよ? 僕らの声」
「何度もって…」
驚愕の事実に絶句していると「電車の中で退屈だから、由梨絵さんのかわいい声を聞いて和んだりしてるんだ」などと更に驚愕の告白!
「和真くんっ! なんて事を」
「いーでしょ? 音漏れしないヘッドフォンなんだから、誰にも迷惑かけてないし。
 由梨絵さんは知らないかもしれないけど、朝のラッシュ時の電車って、乗ってるだけでかなりストレスなんだよ。
 由梨絵さんの声でも聞かないと、誰彼構わず喧嘩ふっかけそうになるんだから」
涼しい顔でそう言うと「こうやって物証があるんだから、由梨絵さんも言い逃れできないよ?」などと、邪気の無さそうな顔でにっこり、と笑う。
笑顔の裏で、邪気いっぱいの行動ですけど〜〜!
「さぁ、ご飯食べよ?
 ご飯の後、バスルームで、さっきの続きしてあげるね?
 週末じゃないから、シーツ洗えないかもしれないもんね」
仕切りまくる和真に、言い返す言葉も見つけられない。
だって、ショックが大きくて。
「…和真くん、絶対ケータイ落としちゃダメよ?」
もっと他に言うこともあるだろうとも思うんだけど。
思わずそんな事を口走ると「由梨絵さんのかわいい声は他の奴には絶対聞かせたくないから、絶対大丈夫」などと、根拠の無い自信いっぱいの返答。
食卓に戻ろうとして立ち上がろうとするんだけど、たった今の刺激に腰が疼いて、足に力が入らない。
諦めてカウチにもう一度体を預けると、和真が不思議そうにあたしを見返した。
「お腹空いてるって、さっき言ってなかった?」
「…空いてるけど」
「拗ねてるの?」
あたしの顔を覗き込んで、和真は面白そうにそう聞いた。
「違う」
「寝るのが遅くなっちゃうよ」
言いながら、深いキスを落とす和真。
キスで盛り上がる気持ちを抑えることが出来なくて、和真の首に両腕を絡めて抱き寄せる。
「…先に、風呂にしよっか」
和真も盛り上がってきたみたいで、少し呼吸を乱しながら、あたしの体を撫で回す。
あたしはこくん、と頷くだけの返事で、耳の先まで羞恥に染まるのを感じていた。

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