「え? テレビ?」
夏休みに入ろうって言うのに、相変わらず忙しいセラは今日も帰りが遅かった。
もう期末試験も終わったと思ったのに、今度は試験結果を見ての職員会議(セラったら理事長の癖に全学年の職員会議に出ようとするんだよ。そんなの学年担当に任せておけばいいじゃない。ぶーっ!)が目白押しなんだって。
「うん。武井さんも断りきれなかったらしくてさー」
枕を背中にしたまま、ヘッドボードに寄りかかる。
腕の中にはセラに随分前に買ってもらったキリンのぬいぐるみ。
お風呂から出て来たセラは首からタオルをかけて、ガシガシ頭を拭いている。
あたしはそんなセラに密かに見とれながら、キリンをぎゅってした。
「どんな内容なの?
 武井さんが受けてくるぐらいだから、変な内容とは思えないけど」
「それがさー。あたしに告ろうとしてる芸人さんが居るらしくて。
 それを受ける番組」
まじまじとあたしを見返すセラ。
やだよねぇ。奥さんがそんな番組に出るの。
「ふーん。武井さんがそんなの受けちゃったんだ」
タオルを首にかけて、ベッドのあたしの顔を覗き込む。
あたしは何故か慌てながら「そ、そうなんだよ。ホントもー、困っちゃうよねー」かなんか言いながら、セラから視線を逸らせた。
「香織もまんざらでもなかったりして?」
にやり、と笑うセラの視線がちょっとえっちっぽい。
あたしは心臓を上ずらせながら「ち、違うもんっ」なんてさらに慌ててしまう。
「告られたら受けなきゃいけないの?」
「そんなこと無いと思うけど。武井さん、細かいこと例によって教えてくれなかったから」
「そっか」
あたしの前にかがんでいたセラは、ふと立ち上がって部屋から出て行った。
はぅ。あたし、だんな様にドキドキし過ぎ〜〜!
キリンを抱き締めて、そのままぽふ、と横になる。
だってさ。セラと一緒に住んでるって言っても、一緒にこの部屋で過ごすのなんて、離れて過ごす時間と比べたらほんのちょびっとなんだもん。
慣れてないだけだよ。セラの居る生活に。
そう考えて、はぅ、とまた溜め息。
それなのにまた変なテレビ番組に出されちゃって、セラとの時間が壊れちゃったらどうしよう…。
そんなことありえないとは思うけど、不安になって天井を見つめる。
セラ…遅いな……。
ベッドを抜け出してセラを探しに部屋を出ると、リビングから英語で話すセラの声。
英国にかけてるの?
ちらっと顔を出すと、あたしに気付いたセラに目配せで呼ばれた。
ソファーに座るセラの隣に腰掛ける。
セラはあたしの肩を抱いて、電話の相手と話続けている。
どうやらローリーパパと話しているみたい。
ん? あたしのこと?
セラを見上げると、イタズラっぽく笑い返された。
電話を切って、あたしにキス。
「今親父に交渉してたんだ」
肩を抱かれたまま、セラを見上げる。
交渉って?
「香織が結婚してるって日本のマスコミに話してしまってもいいかって。
 まだ話して無かったのかって呆れられちゃったよ」
「え? マスコミって?」
記者会見とかするつもりかな。
あたし、そんなに知名度あるわけじゃないんですけどー。
「テレビに出るんでしょ?
 どっかの知らない奴に好きですって告られる番組に」
「うん」
「結婚してますって断ればいいじゃん」
え゛。
「せ、セラ!」
「そうすれば、俺も学校関係者や父兄に説明する手間も省けるし。
 公表してしまってからなら、延び延びになってるお披露目パーティもプランしやすくなるでしょ?」
にっこりってプリンススマイルのセラを、今度はあたしがまじまじと見つめてしまう。
公表って。テレビで公表って〜〜!

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