「あ、麻生。その人? お前の彼女」
和真に連れられて歩き始めると、さっそく廊下をすれ違う男の子の一団に声をかけられた。
「うん、そう。かわいいでしょ?」
あたしが逃げ出さないようにしっかりと右手をカップルつなぎでつなぎ合わせてから、和真はいけしゃあしゃあとそんな事を言ってのけた。
か、かわいいって……。
気恥ずかしさと罪悪感(だってそうでしょ? ホントは和真みたいな子供とこんな関係になるのはイケナイことなんだもの)で思わずうつむく。
「かわいいっていうか…」
「なぁ?」
う…かわいくないって和真の手前言えないって雰囲気。
キミたち、無理しなくていいんだよ。
なんでーこんなおばさん、とか言って笑い飛ばしてくれても、あたしはちっとも傷付かないんだから。
居たたまれない気持ちで小さくなって和真の背後に隠れるようにしていると。
「つーか、すげー大人っぽくね? 何年?」
はぁ?
何年て…それって学年聞いてるの?
「もう大学も卒業してるんだよ」と、和真。
「マジで?」
「すげー! 大人の彼女!」
「あー、理奈ちゃん振った意味がやっとわかったよ」
「こんな彼女だったら…なぁ?」
「だよ、なぁ?」
目の前で小突きあう少年たち。
少し頬を赤らめて。
どうしたって言うの?
「じゃあ、俺、校内案内したいから」
さり気に手を引っ張られて、また歩き出す。
「おー。彼女さん、ごゆっくりー」
「あ、合コンしませんか? 合コン!」
「バカヤロ! 会ったばっかでなに先走ってんだよ」
「麻生のスケベ! この、ヘンタイ!」
わいわい騒ぐ今の子達の声を背中で聞いて、和真は満足気な笑みを口元に浮かべている。
あたしは何も言う言葉を見つけられずに、和真に手を引かれて更に歩を進める。
その次に会った女の子の一団にも、和真は同じようなやり取りを繰り返した。
先ほどの男の子とあまり変わらない反応に、あたしも少しだけ慣れてきた。
まぁ、今日は和真の付き合いだし。
あたしは和真の背後で小さくなっていよう……。
「あー、でもこの人、麻生くんのお姉さんじゃないの?」
女の子の一人が、突然思い付いたみたいにそう言った。
「違うよ」
一言否定してから「でも、お姉さんみたいなものだけど」などと付け加える。
直後、甘えるような、嬉しそうな笑みを浮かべてこっちを見た。
こいつ…ちょー演じてる!
その時、あたしの脳裏に黒沢の『弁護士なんて、法廷ってシアターで踊るアクターだ』って言葉が浮かんだ。
『弁護士なんて、法廷ってシアターで踊るアクターだ。
 どんな演技だってできるんだよ。
 本気出せばね』
涼しい顔でジンライムを飲み干す黒沢の喉仏の動きも。
うーわー。何考えてるの? あたしったらー!
「なんかー、こんな麻生くん、初めて見たー」
「ねー。幸せそうで羨ましい」
「ホント? どうもありがとう」
女の子たちの言葉に、和真は照れ臭そうにお礼を言った。
……これは素だ。うぬぅ。和真の奴、だんだん黒沢に似てきてる。
演技とホンネを混ぜて使ってきちゃって。

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