「由梨絵さーんっ」
「和真くんっ人前でくっつかないのっ」
「えー? いーじゃん。別に」
あんたは良くても、あたしは良くないっつーの。
未成年者と淫らな行為を行ったーとかで逮捕されたらどうすんのよ。
むー、として和真を見返すと「変なの。なんで怒ってるの?」などと、ぶっきらぼうに聞いて来た。
今日は和真の学校の文化祭なのだ。
日曜日は校外のお客さんがたくさん来るとかで、土曜日に来いと命じられ、渋々校門の前で待ち合わせた。
校門横に、いつもの守衛さんが立っている。
先生と思しき男性も。
そんなところで、あたしに抱きつこうとするコマッタくん。
和真の様子を見て、校門脇の大人二人が、目一杯『ナンですかありゃ?』って目であたしを睨んでいる。
やめてー。見ないでー。
「和真くん、淫行条例って聞いたこと無いの?」
小声で和真に言うと「なーんだ。そんな事気にしてるの?」なんて呆れ顔。
こらこらー! なんなの? その余裕はー!
「『何人も、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行つてはならない』でしょ?
 それにはね、『婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある場合は含まない』なんてあいまいな定義があるんだ。
 それに、人前でかなりやらしーキスをしたりセイコウルイジコウイをしたりしなければ、摘発されることなんか無いよ。
 たとえ僕がこんなことしても、これぐらい友達同士だってするでしょ?」
言いながら、あたしの肩を抱き寄せる。
「こ、こらっ!」
思わず抵抗しそうになるあたしを、和真はさらに抱き寄せる。
「和真くん」
「大人しくしないと、先生の前でキスするよ?」
見上げると、思いっきりサド目の和真。
なんなのよ〜〜!
「なんてこと言ってるの?」
「大丈夫。由梨絵さんが服役中の二年間ぐらい、浮気しないで待ってられるから」
「ふ、服役中って!」
あたしを犯罪者にするつもりなの?
和真はにやり、と企んでそうに笑うと「最高刑は懲役二年なんだよ」などとあたしに教える。
こいつは〜〜!!
「そう言うことだから。
 いこ? 由梨絵さん」
にっこり、と天使のごとき笑顔を浮かべて、和真はあたしの肩に回していた手をどけて、代わりにあたしの右手を取った。
そのまま引き摺られるようにして、メイン会場の校舎に連れて行かれる。
こらこらこら〜!
……でもまぁ、手をつなぐぐらいなら淫行とは言わないか。
騒ぐのも変なので大人しくついていくと、和真は少し嬉しそうにあたしを見返した。
校舎に入ったところのテーブルの上で入館記帳。文化祭でもこんなの書かせるの? 変な学校。
お客さん用のスリッパに履き替えるように促されて、いよいよ内部へ潜入。
文化祭の慌しい、でも心なしかウキウキしている雰囲気が隠し切れない校舎の中は、乾いた上履きのゴムの匂いがかすかに香った。

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