「それじゃ、今日はよろしくお願いします」
収録当日。
あたしはゲストなので、余りたくさん打ち合わせすることも無く、リハーサルを迎えた。
あたしに好きだって告白する芸人さんは、若手の中では中堅に位置する方らしく(あたしは日本の芸能界には疎いので、今回初めて知った人だ)番組も丁度中間ぐらいに登場する。
テレビの出演て、実は初めてでちょっと緊張。
ショーのランスルーみたいに、カメラを回しながら本番と同じことを言ったりやったりする。
リハーサルの間に、スタジオの外で相田さんとセラ、武井さんが、あたしの今後について相談しているはずだ。
出番までは待ち時間なので、ぼーっとテレビを見ている感覚。
こんなあたしでも知っている芸人さんが何人かいて、ちょっとお茶の間状態でわくわくしちゃう。
「それじゃ、香織さん。
 そろそろご準備お願いします」
ADさんに呼ばれて、セットの裏に。
カーテンの下ろされたブースの中で、出番までまた待ち。
カーテンの外では、司会の芸人さんがずっとしゃべりまくってて、よくネタが尽きないなーって感心しちゃうよ。
「それでは、柴田香織さんです!」
うわー。リハーサルでもちょっと緊張しちゃう。
目の前のカーテンが音も無く引かれて、眩しいスタジオのライトに一瞬混乱しそう。
そこをプロ根性で目をパッチリ開けて、あたしは打ち合わせ通り、モデルウォークで舞台中央まで歩いてから、ターンしてポージングした。
会場からどよめきが上がる。
たいした事してないんだけどな。
「うわー本物だ」
司会の人に言われて「本物です。初めまして」と答える。これも台本通り。
あたしの経歴が書かれたボードが用意されていて、高校の時に載った雑誌とか写真とか、卒業してからのショーの様子の写真なんかが紹介される。
そのたびに、ひな壇に並んだ芸人さんから色んなコメントが出て(これはほとんどアドリブだった)いよいよ、あたしに告りたいと言う芸人さんが、結構マジな雰囲気のラブレターを読み上げてくれた。
なんかちょっと…いいのかな。こんなにマジな雰囲気で。
その人は顔を真っ赤にしながら、最後「ずっと、あなたが好きでした」と言って、あたしを見つめた。
会場にドラムロールが鳴り響く。
うわー。なんか、緊張しちゃう。
「それでは柴田香織さん、お返事を、どうぞ!」
司会の人に促されて、一瞬ひるんだけど「実は私、結婚してます」と、はっきりと答えた。
一瞬。
会場中がシーンと静まり返る。
直後、えー? とか、マジでー? とか、ものすごい騒ぎになった。
芸人さんて、一人でも声がでかいのに、こんなに一度に声を上げたら、そりゃ凄い事になるよね。
あたしに告った芸人さんは呆然としている。ごめんなさい。
「ちょっと、ちょっと待って、ちょっと待って」
司会の人が慌てた雰囲気で「いいの? そんなこと、テレビで言っちゃって」なんて気を使って聞いてくれる。
「はい。私、タケイハルカブランドの服しか着ませんし、今日ここで発表するの、武井さんもご存知ですから」
「はれー、まぁテレビ的には美味しいネタだけど」
「どんな奴ですか?」
え?
あたしに告った人が、すっごい思いつめた顔であたしをにらみ付けている。
えーっと……
「どんな奴が、あなたとけ…結婚、してるんですか?」
「俺だけど」
並んだカメラの間から、セラが右手を挙げてその芸人さんに笑いかける。
こ、こらー、セラは〜〜!
「えー? かっこええ…」
司会の人がセラを見てつぶやいた。
とたんに女性の芸人さんが「イケメンだー」かなんか騒ぎ出した。
「モデルの方?」
聞かれて「いえ、高校の時の、恩師…なんです」と、どこまで答えていいのかわからなくなって来た。
「ちょっと、できたら本番の時にもさらっと今みたいに出てもらえないでしょうか」
司会の人はかなりの大物なので、プロデューサーに許可無くセラに出演交渉し始めた。
いいのかなぁ、こんなルール無用な感じで。
セラは武井さんと何事か打ち合わせてから「結構ですよ。短い時間でしたら」なんて快諾しちゃった。
セラ〜〜!
こんな滅茶苦茶な状態でリハーサルが終了して、本番もほとんどリハーサルと同じ内容。
なんだかなぁ。

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