「セラったら、出演快諾しちゃっても〜〜」
収録が終了して、武井さんと三人でご飯に出かけたんだ。
結婚したこと、まだヒロミぐらいにしか知らせてないのに。
落ち着いたらパーティーしてお披露目しようって事だったから、まだほとんどの友達は知らないんだ。
「出てくれって頼まれたんだから、しょうがないじゃない」
苦笑するセラの隣で武井さんも「そうよ。結婚したなんてテレビで言ったら、相手は世良さんねって、誰でもピンとくるわよ」なんて言っちゃってる。
そうかもしれないけどー。順番てものがあるじゃないかー。
「あ、それから、香織のテレビ出演、断っておいたからね」
セラが言うのに顔を向けると「どうも今日みたいなバラエティに出したいみたいだったから」なんて、涼しい顔で答える。
「そうなの?」
「世良さん、猛反対してくれたの。
 どうしてもテレビに出したいなら、ファッション絡みじゃないとお受けできないって。
 香織の仕事はモデルであって、芸人じゃない、なんて凄んじゃって。
 おっかなかったのよぉ」
「やだな。凄んでなんていないですよ」
今日は二人とも車じゃないから、軽くお酒も飲んでいる。
セラは少し照れてるみたいな雰囲気で、手元の日本酒をちび、と飲んだ。
「うそうそぉ。
 今日、香織ちゃんに告白した芸人さん、あれね、あの局の取締役の息子らしくてさぁ。
 バラエティに香織ちゃんが出るようになれば、芸人さんと接点も増えるでしょ?
 それで、パパにごり押ししてたみたいなのよ。
 今日の出演も、それで畑違いの相田さんまでもが引っ張りだされたんだって。
 それ知ったら世良さん、もーぉ鬼の形相になっちゃって」
きゃははははーと、笑う武井さんに「武井さん、今日、飲みすぎですよ」なんて、たしなめるセラ。
そうなんだぁ。
なんか、セラに守ってもらった気分♪
ちょっと嬉しいぞ!
三人でタクシーに乗って、武井さんを降ろしてから家に帰る。
「セラ」
「ん?」
「テレビ、断ってくれてありがと」
タクシーの振動に揺られながら、お酒にほてったほっぺをセラの肩に預ける。
セラは優しげに微笑むと「香織の仕事の幅を狭めちゃったかもしれないけどね」なんて言いながら、あたしの手を握った。
「セラこそ。あたしが日本のテレビでレギュラー持ったら、一緒に居られるかも、なんて言ってたのに」
「番組の内容にも寄るよ」
セラのあったかい手のひらに包まれる、あたしの手のひら。
ほんわか。幸せだい。
 
後日。
収録した番組が放送されるや否や、あたしとセラのケータイにものすごい量のメールが届いた。
兄貴からは「ツイッターがすげーことになってる」って国際電話がかかってきて。
番組を見ていたGBのフォロワーが、カズの妹がテレビに出てる(これ、あたしのことね)ってつぶやいてたんだけど、その結婚相手がセラだってわかった瞬間、爆発的なコメントが付いちゃったんだって。
びっくり。
家の電話に父兄からも問い合わせがあったり、結構深夜まで大変なことになった。
あーもー。
テレビはこりごりだよぉ。
「セラ?」
リビングでまだケータイをいじってるセラに声をかける。
明日また、朝早いんじゃないの?
「ん? もうちょっとで返信終わるから」
「うそ! 今日中に返信なんて無理じゃない?」
セラの律儀さには呆れちゃう!
あたしのブログにもいっぱいコメント付いたけど、お返事はまとめてごめんなさいにしちゃうぐらい大変だったのに。
「でも、みんなおめでとうって言ってくれてるからさ」
言いながらもセラは、ケータイを打つ手を休めない。
ケータイメールのお返事だって、何日か遅くなってもみんな良しとしてくれるんじゃない?
「香織との結婚、ずっと黙ってたでしょ?
 後ろめたいって言うのもあったけど、なんでコソコソしなくちゃいけないのかなぁって言うものあって。
 香織の仕事の絡みだって言われちゃうと、なんか強く出られなくてさ。
 やっと公表できたら、ホントにみんな、おめでとうって言ってくれて。
 なんか、すげー嬉しいんだ」
そう言いながら、セラはとても幸せそうに微笑んでいる。
「……コーヒー、淹れるね」
セラが嬉しそうにしてるのを見て。
あたしも心の中をほっこりさせながら、コーヒーのいい香りを胸いっぱい吸い込んだ。

←Prev   Index   HOME    Contact

inserted by FC2 system