『たかにいちゃまは、あたしの王子様なのっ!』
『え〜? お前あんなじじーが好きなのか?』
『じじーじゃないもん。王子様だって言ってるでしょ?
 も〜、晃彦ちゃんなんか、嫌い! どっか行ってよ!』
『どっか行ってよっ!!』
 
「美鈴〜! 早く起きなさい。
 遅刻するわよぉ」
お母さんの日課である、朝の雄叫びによって、あたしは清清しく目を覚ました。
げ。もーこんな時間。
ぼんやりと朝日に目を焼かれながら、伸ばし放題の黒い髪のなかに指を突っ込んでくしゃっとかき回す。
あ〜、完全に二日酔いだわ。これ。
なにしろ二時間前までたかにいのお店で飲んでたんだし。
学校で酒臭いって言われないかなぁ…。
「美鈴ったらっ! なにやってるの! 早く起きて学校に行きなさいっ!」
お母さんの我慢ならんって感じの怒声に、ぼぉんやりと「ふぇ〜い」なんて答えると、あたしは学校の制服をクローゼットから取り出して、着替え始めた。
学校までは自転車で十五分。
この近さに惹かれて、同じ学区内であと三ランクぐらい偏差値高い学校の願書を蹴ってこっちにした。
当然、クラスメイトはあんまり頭のよろしくないのばっかで。
あたしは日課だからって理由だけで、毎朝自転車のペダルを漕ぐ。
大学受験するなら、学校の授業だけじゃ全然足りない。
わかってるけど、流されちゃうあたし。
つーわけで、今日も二日酔いの頭を抱えて、一身にペダルを踏み込む。
「おっはよ〜、美鈴」
チャリ置き場にカタカタとママチャリを搬入していると、背後から声をかけられた。
「あー、はよ」
ヨシミは機嫌良さ気にニコニコ笑いながら、
「ねー、今日の英語、当たりそうなのぉ。ノート見せてぇ」
などといきなりあたしにねだる。
開口一番、それかよ。
「…いーっすよ。ヨシミちゃん、これで三ポイントね。あと一回で、好きな事させてもらうから」
このヨシミって女も馬鹿だ。
あたしのノート、結構いろんな奴が借りに来る。
ま、この学校、馬鹿ばっかだからね。
最初は貸してやってたけど、余りにも遠慮なく借りに来やがるから、四回貸したら、あたしのお願いなんでも聞いてねって事にした。
三回借りて、二度と借りに来ない奴がほとんどだけど、このヨシミって女は、次回で三度目のお願い権発動だ。
また客取って来なくちゃ。
「ね、ねぇ、美鈴ちゃん。また…何人か?」
お前、これも楽しんでるんだろ。この淫乱女!
「さぁ。どんなのが食いつくかわかんないからね」
ジョシコウセイって言葉だけで、いくらだって金になる。
ギブに対して、あたしはテイクするの。あんたの体を使ってね。
…とまぁ、あたしのバラ色の高校生活は結構楽しくて潤いのある日々だったりするの。
「お前、またたかにいの店に行ってたろ」
幼馴染でいとこでご近所の晃彦が、あたしの前の席の椅子に反対側から腰掛けて背もたれを抱きしめる。
「…あんた、そーいえば今朝夢に出てきた」
晃彦のすぅっと伸びやかな鼻梁にあたる朝日のせいで、今朝がた見ていた夢を思い出す。
『たかにいちゃまは、あたしの王子様なのっ!』
…おーじさま、ねぇ……。
「美鈴。いーかげんにしといた方がいいぞ。
 高校生が毎晩ゲイバーに入り浸って」
うっさいなぁ、も〜!
「あんたのにーちゃんだろ。いーじゃん。ホストに入れ込んでる訳じゃないんだから」
そんな事より、ねみーのよ。あたしは。
「あんなオカマ、兄貴だと思ってねぇよ」
ムッとした雰囲気であたしを見返す。
怒った晃彦は、結構きれいだ。
たかにいに少し似てる。
あそこまできれいじゃないけどね。
「あたしはたかにいに色んな事相談しに行ってるだけ。
 ご心配どーもね。晃彦ちゃん」
しっし、て感じで手を払う。うざいよ。あんた。
晃彦は小さく溜息をつくと、「ちゃんと生徒会室には来いよ」なんて捨て台詞を残して、自分のクラスに戻って行った。
あいつもあたしと同じ、学力レベルに見合った学校を選んでない。
晃彦だったら、ここら辺で一番賢い子が通う学校にも余裕で入れただろうに。
ぜぇんぶ、あたしのせい。
あいつ、ちっちゃい時からあたしに惚れてんのよ。
でも…
あたしはやっぱり、たかにいが一番……。
 
「ふ…ぁっ
 晃彦…
 もっと、優しくできないの?」
放課後の生徒会室なんて、生徒会の役員だって毎日入って来る訳じゃない。
あたしと晃彦は生徒会の副会長と会長だから、二人でドアを締め切ってこの部屋に居た所で全く違和感無し。
だから、あたし達が役員に選ばれてからと言うもの、どっちかの部屋で両親の動向を伺いながら、なんて事は無くなった。
学校の中で、もっと簡単につながれるんだもん。
「できない。
 美鈴。今夜はたかにいの店に行くなよ。
 今日、おふくろ達帰りが遅いみたいだから。
 これから帰って、俺の部屋でしない?
 久々にベッドの上で」
机の上に座らされて、晃彦を何度も迎え入れる。
ああ、ベッドの上…。それもいいかも…。
「あ…晃彦…
 その前に、一回イかせて…」
二階窓際の机からは、下校する生徒の姿が良く見える。
白いカーテンの隙間から、見ようと思えばあたしがここでこうして足を上げて、ピストン運動をするすこしお尻のはだけた晃彦を迎えているってわかるはずだ。
このシチュエーション。あたしはそんなに嫌いじゃない。
「あき…ひ…こ」
晃彦はあたしの中にゆっくり出し入れしてかき回しながら、右手であたしの敏感な所を刺激する。
もう慣れたものだ。的確にあたしのツボをついてくる。
「あ、美鈴…
 俺、もう……」
あたしを突き上げながら、晃彦は額に汗を滲ませてぎゅっと瞳を閉じた。
この瞬間の晃彦は、目を見張るほどきれいだ。
うっすらと汗に光るのけぞった首筋は、くっきりと喉仏の影を落とす。
少し濃い目の眉をくくっとしかめて天を仰ぐ。
薄く開いた口元からは、激しい呼吸と、狂おしい溜息が絶えず溢れて、時折切なげにあたしの名前を呼ぶ。
あたしの位置からは、縦長の晃彦の鼻の穴がひくひくと動くのまで良く見えて、なんとなくいやらしい想像をさせる魅惑的なその穴を、あたしはぺろ、と舐めてみる。
「ああ、み…すず…」
あたしのぺろ、で、晃彦はどっと脱力した。
あぁん。もうちょっとだったのに…。
イったあと、晃彦はいつも、あたしに濃厚なキスを求める。
あたしはあと一歩で及ばなかった体を持て余して、そのキスを受けた。
「晃彦…酷い。自分だけ」
キスでまたトロトロになりそう。
どうにかして。あたしを…。
「やっぱ、うち行こう。
 シャワー浴びてから、今の続き。ね? 美鈴」
少し甘えるようにあたしを見返す。
「ホントに誰も居ないの?」
脇にあったショーツに足を突っ込みながら、上目遣いで聞いてみる。
「うん。隣のおばさんと、歌舞伎見に行くって言ってたから」
生徒会の備品のティッシュで後始末をしながら、晃彦はいたずらっぽくふふ、と笑う。
「服、全部脱いでいいよ。今日は出血大サービスで、美鈴をイかせまくって上げましょう」
あたしの長い髪の中に、晃彦の指が潜り込む。
首筋をくすぐられて、腰の辺りに電流が走った。

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