「今年も文化祭やるんだよ。
 来週の土日に」
夕飯のとき、満面の笑みの和真から報告を受ける。
「ふーん。もう作品は描けたの?」
美術部の和真も当然作品を出品するんだろうと思って聞くと「うん。見に来てね」などと無邪気な誘い。
学校って。キミのモトカノとか居るじゃないの。
「どうかなぁ。仕事が詰まって無ければね」
一日ぐらい調整できないわけ無いんだけど、行けないかもオーラを全身から漲らせる。
学校なんて、あたしにとってはアウェーな場所で、理奈ちゃんと顔を合わせるのは気が進まなかった。
「あ。仕事なら大丈夫。
 今朝、靖代さんに会ったときに聞いたら、一日ぐらい調整できるし、土日は休みだから大丈夫って言ってくれてたから」
う…。靖代さんから先に攻めて来たか。和真の奴。
「そ、そう…」
「どうしたの? なんか、都合が悪かった?」
そう聞く和真は、実はあたしが和真の学校に行きたくないと思っていることをすっかり予測しているみたいな顔。
都合悪くないって、あたしの口から言わせたがってる雰囲気。
こいつ、だんだん策士になってくる。
黒沢の仕込みのせいかしら。
「まだわかんないんだけど、もしかしたらよしみんが遊びに来るかもしれないかなーって」
「だったら、よしみんさんも一緒に来たらいいんじゃない?」
にっこり、って。
うー。よしみんと一緒に和真の学校になんて行ったら、美少年を見かけるたびにきゃーきゃー言って恥ずかしいったらこの上無い状態に陥りそう。
なにしろ絢芽ちゃんの学校に行くたびに、何組のなんとかクンがかっこいいのよー、なんて電話をかけてくるんだから。
和真の学校って結構美形が多いのよね。去年文化祭に行って思ったんだけど。
そんなよしみんパラダイスに連れて行くなんて、ちょっとめんどくさい…。
「…そうね。誘ってみるわ」
笑顔でそう答えて、どうやって断るか思い巡らしていると。
「理奈にはもう、新しい男が居るから。
 学校の奴らはみんな、僕の彼女は由梨絵さんだって知ってるし」
え?
目を真ん丸くして絶句していると「理奈を振るのに、それなりの理由が必要だったんだよ」なんて涼しい顔。
「そ、そんな学校に、どんな顔して出かければいいのよっ」
「え? ふつーに」
普通ってなんなのよ〜〜!
「あたしっ、和真くんの学校になんて行けない」
「いいの? そんな事言って」
げ。悪巧みの顔〜〜!
和真はにやり、と悪そうに笑ってから「僕ってかわいそう。自慢の彼女が居るって言うのに、友達に紹介する機会をもらえないんだ」などと、溜め息混じりに言い放つ。
「紹介なんて必要ないでしょ?」
「由梨絵さんには無いかもね。
 でもさ、僕としちゃ余計な外野を黙らせるために、物的証拠を差し出したいところなんだよね。
 何しろ、校内で一番かわいいって言われてる理奈を振ったんだから」
一番かわいい、と、振った、に力を入れて、和真はニヤニヤとそう言った。
「…そんな所にあたしが出かけたら、納得するものもしなくなるんじゃないの?」
「そんな事無いよ。理奈と由梨絵さんだったら、全然タイプが違うんだから」
う…かわいくないおばさんて言われた気分……。
ちょっとムッとしていると「理奈みたいなかわいいだけの子は、僕のタイプじゃないんだ」などと、あたしの気分を無視して続けた。
「えーえ。あたしはかわいくないおばさんですからね」
「そうだね」
に、と笑う和真。むっか〜〜!
「和真くんて変な子。
 かわいくないおばさんを自慢したいだなんて」
「そうだね。僕は変なんだ。
 由梨絵さんみたいにかわいくないおばさんが好きなんだから」
しれ、としてそう言うと「絶対来てよ」などと、デッサンしている時ほど真剣な顔で駄目押しする。
「約束できない」
「来てくれなかったら探し出して迎えに行くから」
「そんなの迷惑よ」
「由梨絵さん」
ぎく。
和真はかなりムッとした顔であたしを見返すと「後で自分から行くって言わせるよ?」などと言って口の端だけにやり、と持ち上げた。
ドS顔〜〜!

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